一匹狼

夜に紛れる一匹の狼がいた
狩が下手くそな狼は今夜も餌にありつけずに月を眺めていた。
群の狼とはすぐに喧嘩になるし、掟はリーダーの命令ばかりでとても嫌いだった。
狼は独りぼっちだった。
そのかわり自由だった。
いつでも遠吠えをして、いつでも狩に出れる。
自由気ままな狼は他の狼に嫌われていたが、
それでもよかったし、それがいいと思い込みたかった。
本当は一緒に狩に出たり、一緒に遠吠えしたかった。
でも、出来なかった。

何か満たされない狼は色々な森へ旅に出た。
カラスが嘘をついたり、蛇が意地悪をして来たが、
フクロウが道案内をしてくれたり、クマが木ノ実をくれたりした。
狼の群れに近づかない動物たちはなぜか一匹の狼には優しかった。
狼はとても嬉しくてその度にありがとうとお礼を言うが、
それだけでは気持ちが収まらなかった。
その気持ちは、怪我をした子グマの手当てをしたり、
川で溺れた狐を助けたりして、その度に言われるありがとうが唯一満たしてくれた。
狼はありがとうと言われるのがとてもとても嬉しかった。

ある日とても腹を空かせていた狼は、怪我をしたウサギを見つけた。
すぐに飛びかかって食べようとしたが、逃げれないウサギを見て狼は食べるのをやめて
ウサギを他の狼やカラスから守りながら棲家まで連れて行った。
その夜、狼は満月の夜に紛れて、飢え死んでしまった。
周りには、クマの親子や狐やウサギやフクロウがシクシク泣いていた。

 

というお話し。